漆×トールペイント 津軽より.

異彩の彩 (いろどり) .

クラフトラボ、全国のクラフト作家を紹介する“ピックアップアーティスト” 第6回は、青森県弘前市でトールペイント作家として、講師として活動するアトリエY主宰・三上雪路 (みかみ ゆきじ) さん.

 

各種出版物での作品発表、メーカー主催のコンクールでの受賞に併せ、地元弘前での作品展の開催など、その活躍は枚挙にいとまがないが、ここ数年トールペイントと並行して独自の世界観を醸し出しているのが“漆”とトールペイントのコラボレーション.

弘前と言えば、唐塗、七々子塗、紋紗塗、錦塗、いわゆる津軽塗の産地であり、地の利を生かした三上さん独自の作品とその背景についてお話を伺いました.

 

 

 

漆の話の前に、トールペインターとしての三上さんについて少々・・・.

以下は、2008年弊社発行のトールペイント情報誌「アガルタ通信8号」、三上さんの掲載時の記録からの抜粋である.

三上さんとトールペイントとの関わりは約30年前に遡る.一年ほどカルチャーセンターに通ったとはいえ、基本的には独学.しかしながら、アトリエを構える弘前の自然が、独学という一見不利にも思える学習環境を有利に導く.当初から、アトリエを訪れる野鳥や小鳥のさえずり、遠くに聳える岩木山が作品の随所に現れ、雄大な、或いは繊細な自然に向けられた視線が三上さんの作品に色濃く反映されているのである.

「あなたの先生の言葉を信じなさい」三上さんが最初に参加したセミナーの講師であったアンディー・ジョーンズ氏の言葉である.「アトリエの周りに広がる自然が一番の先生ですね.」とは三上さん.

 

“自然が最良の教師”であること、現在の三上さんと“漆”との関係はすでにこの時に暗示されてたようにも思えるのである.

 

 

“漆”との出会い.

 

三上さん(以下、敬称略)「津軽と言えば、やはり津軽塗ということもあって、もともと興味はありましたね.一時期トールペイントの世界でも、光沢の魅力でしょうか、私を含め、多くのペインターが漆を作品に取り込みながら、新しい作品を作り上げていったのですが、何となく違和感っていうんでしょうか、何かが微妙にずれているなって感じていたのも確かなんです.」とは当時の印象.

 

ある疑問~本当の出会い

三上「その当時のトールペイントと漆のかかわりというのは、仕上がりに重点が置かれていて、やはりそれはトールペイントの延長上にあるもので、本当の意味での漆とトールペイントのコラボレーションではなかったんですね.

2017年から、弘前のヨークカルチャーでの津軽塗をベースにした金継(きんつぎ)と漆器の講座を受講するようになってその違和感は解決しました.

講師は津軽を代表する漆芸家の松山継道(まつやま つぐみち)氏の息子さんで、津軽塗職人の松山昇司(まつやま しょうじ)氏.山形の芸工大を出られて現在は、弘前の工房、“松山漆工房”で親子で津軽塗をされています.

この時とばかりに色々なことを聞いているうちに、漆は漆、トールペイントはトールペイント、まず作業のプロセスが全く異なるもので、それを同一の工程の中で扱おうとすると、結局は両者が破綻するということでした.

少々、ショックを受けましたね(笑).これまでやってきたことは何だったのかというか (笑)、でもそれが私と漆との本当の出会いだったのだと思います.」 

 

松山継道氏、松山昇司氏の作品は弘前の和雑貨店 与志む良(よしむら)様にて扱われております.

和雑貨 与志む良 (よしむら) HP・→

アトリエY 10th Anniversary トールペイント&デコラティブペイント作品展/弘前市立百町展示館 2008年
アトリエY 10th Anniversary トールペイント&デコラティブペイント作品展/弘前市立百町展示館 2008年
会場内 漆の椀によるテーブルコーディネート
会場内 漆の椀によるテーブルコーディネート

三上「それからが、大変でした(笑).私はのめり込む方なので(笑)」

 

三上「カルチャーセンターでの学習は勿論、多くの本を買い漁って必死に勉強しました.“漆学”や“漆への憧憬”は私に多くのものを与えてくれましたね.例えば、トールペイントそのものがその発生において、漆との密接な関係があった事とか・・・.16世紀に日本から輸出された蒔絵が南蛮漆器、輸出漆器として、ヨーロッパの文化に大きな影響を与えて、塗料の開発を促したこととか、それが結果的に、デコパージュやトールペインティングといったハンドクラフトに変革をもたらしたこととか、そのように考えると、一時期私を含めたトールペインターの意識が漆へと向かったことも理解できますよね.」

※写真2点は、三上さんの座右の書でもある“漆”の解説書

 

 

昨年は『漆サミット2019in弘前』に出席されたと・・・.

 

 三上「はい.私は以前より考古学に興味があり、縄文時代の漆製品について色々調べていましたので、このサミットにおいて明治大学の先生による「縄文の漆製品とウルシの利用」という講演はとても刺激になりました.青森県内の縄文時代の遺跡からは漆製品が多数出土しており、今年改めて亀ヶ岡遺跡や是川遺跡などに足を運びました.実際に出土品を目の当たりにすると、現代の工芸品と見紛うほどの漆製品を縄文時代の人が制作していたことに感動を覚えますね.」

 

三上「これまで私が扱ってきた画材は水分を蒸発させて乾燥、または油を酸化させて固化していたものが、漆は空気中の水分から酸素を取り込んで硬化する・・・、すなわち湿気が必要なんです.この不思議な塗料の面白さに夢中になると同時に、縄文人から継承されてきた (少なくとも私はそう思っています) 漆という自然の塗料を、縁あって現在青森県で暮らしている私が、長年積み重ねてきたデコラティブペインティングというものと融合させたいと強く思いました.」 

漆学―植生、文化から有機化学まで (明治大学リバティブックス) 宮腰 哲雄 著 発行:2016/3/1
漆学―植生、文化から有機化学まで (明治大学リバティブックス) 宮腰 哲雄 著 発行:2016/3/1
漆への憧憬―ジャパニングと呼ばれた技法 発行:2010/11/1
漆への憧憬―ジャパニングと呼ばれた技法 発行:2010/11/1

 

 

不思議な縁.

 

三上「縄文時代の漆に関することですが、夫の出身地である青森県中津軽郡西目屋村における津軽ダム建設に伴う発掘調査によって、縄文時代の漆器などの漆製品だけでなく、漆工に関わる遺物が出土しているんです.このことは、そこで漆工が行われていたことを示します。発掘調査は2003年から2015年まで行われ、2016年に津軽ダムが竣工、私は2017年から漆塗りを始めていたのです.何か縄文時代の人々が夫を介して私に、“漆を継承しなさい” と語りかけているように思えて、不思議な“縁”を感じることもありますね.」

試行錯誤を繰り返して、また、多くの方々から学びながら、時には不思議な縁を感じながら、たどり着いたのが、“漆は漆、トールペイントはトールペイント、その両者を分けて考えること”でした.例えば、重箱であれば蓋をトールペイントで仕上げて、側面を漆で仕上げることなんです.そうすることで両者が互いに引き立て合ってこれまでなかった雰囲気を醸し出せることも分かりました.

 

 

漆とのコラボ作品、「津軽の春」.

三上「アクリルと漆のコラボ作品で、平成30年トールペイント日本展で入賞した作品なんですが、少々思い出深い作品なんです.」

三上「梅と鶯をモチーフにして一部、三角形の部分には唐塗り(からぬり)をあしらって春のイメージで仕上げようと思ったのですが、実は仕上げで大失敗をしてしまって・・・.最後に生漆(きうるし)を塗ってしまったんですよ.私まだ、漆と出会ってすぐの頃だったので、生漆とニスを同じものだと勘違いしていたんですよね.全体がカフェオレ色になってしまって・・・(笑) 最初から色を塗りなおしたのですが、全体的に生漆の色が残ってますでしょ(笑). 知らない人からは、良い色だね とお褒めの言葉を頂くことも多いんですよ(笑)」

※作品は非売

「津軽の春」平成30年トールペイント日本展入賞作品.
「津軽の春」平成30年トールペイント日本展入賞作品.

漆とのコラボ作品、「令和」.

三上「令和2年のトールペイント日本展での入選作品なんですが、重箱の蓋をオイルで、側面を漆で仕上げたものです.新元号”令和“をイメージして、梅と春蘭をモチーフに制作しました.」

三上「蓋は春蘭で、側面は梅を自分なりにデザインして描き込んでいます.側面は“七々子塗”で、透明漆で仕上げています.白い床面が写り込んでいるので分かりづらいかもしれませんが、全体的に靄(もや)がかかったように見えませんか? 透明漆特有の雰囲気が出せた作品です.」

※作品は非売

「令和」漆とトールペイント(オイル)のコラボ作品.令和2年トールペイント日本展入選作品
「令和」漆とトールペイント(オイル)のコラボ作品.令和2年トールペイント日本展入選作品


 

 

三上さんから新作が届きました.「縄文人からの継承」

 

三上「縄文時代の漆には赤い色が多く使われています.それは赤色系の顔料として鉱物系のベンガラを混ぜていることが分かっていて、それを試してみたくて松山先生に指導を受け、実践してみました。黒の仕掛けは自分で考えて、ホームセンターで売っているもの (秘密です) を使用しました.ゴブレットの底にはガラス用の漆を塗ってから現代的な白と青の漆で仕掛けをしました.どちらも失敗と、偶然の成功との繰り返しで、二度と同じものは作ることができないと思います.」

 

三上「松山先生に相談した時には、却下されるのかとも思ったのですが、快く指導下さったことにはとても感謝していますね.“自分の先生の言葉を信じること”、現在の私にとって、松山先生は最良の師であって、これからも松山先生の言葉を信じながら、漆とお付き合いしていこうと思っています.」

※作品は非売

「縄文人からの継承」
「縄文人からの継承」

 

 

三上さん、漆を扱っていて一番難しいところは・・・

三上「そうですね、やはり自然のものなので、自分の思い通りにならないところでしょうか.温度や湿度の管理も難しいせいもあり、予測通りに仕上がらないこともあります.(笑) ただ、逆にそこが漆の魅力であることも言えますよね.時間通りに工程が進まないことも多々あって、そんな時は縄文の人たちと同じようにおおらかにならなくては(笑)と自分を戒めております(笑)」

 

 

三上さんにとって、“漆”とは・・・

 

 三上「もともとトールペインターだったので、やはり、一つの画材として考えています.アクリル絵の具と油絵具中心の制作に“漆”という塗料が加えられたことで、表現の幅が大きく広がりました.確かに扱いはとても難しいのですが、思い通りに仕上がった時の達成感はまた格別ですね.“漆”が表現の手法として加えられたことで、これまで以上に楽しさも広がりました.私はクラフトの世界の作家なので、やはり、どれだけ日常の生活を楽しめるのかが大切で、漆との出会いによって、日々の生活がより豊かになった事は確かだと思います.この思いは多くの方々に伝えてゆきたいですね.

三上さん、現在の活動について教えてください.

 

三上「クラフトの世界もコロナの影響で大分ダメージを受けていて、今のところ作品展の開催予定はないんですが、逆にこの時期こそ、自分のイメージを整理しながら新しい作品に取り組む時期であると思っています.漆ってとっても奥が深くて、学んでも学んでもきりがない世界なので、むしろこの時期に次のステップのための準備期間に充てたいと思っています.」

「私はどちらかというと、アイデアを練っている時、考えている時が一番楽しい方なんですよ(笑)」とは三上さん.

三上「私のスケッチブックには、様々なイメージが書き溜められているのですが、いまだ実現されていないものが数多くあります.現在では漆とトールペイントのコラボが構想の中心となっていますが、その実現に向けの時間としたいですね.」

アトリエで漆を扱う三上さん
アトリエで漆を扱う三上さん

三上さん、教室活動について教えてください.

現在は自宅アトリエと弘前市内百石町展示館の2か所でトールペイント教室を開講しております.

どちらもレベル毎にクラス分けをしておりませんので、ご都合の良いクラスにご参加ください.

アクリル・オイル・水彩等、お好きな画材で描いていただき、基本の筆使いを習得していただいたあとは、個々で好きな図案にチャレンジしていただきます.

アトリエYオリジナルデザイン・ティーチングフリーパターン・日本手芸普及協会カリキュラム等選択が可能です.

教室は、これまで通り行っておりますが、やはりコロナの影響もあり、ラインのビデオ通話を使った個人レッスンにも対応しております.

[教室開講日]

  • 隔週月曜/百石町展示館教室 10:00~15:00
  • 隔週火曜・毎週木曜/10:00~12:00(冬期1月~3月は10:30~12:30)
  • 隔週水曜/14:15~16:15
  • 毎週土曜/14:00~16:00
    公式サイトはこちら>
ラインのビデオ通話を使った個人レッスン.
ラインのビデオ通話を使った個人レッスン.

  • 受講料/1レッスン2,000 円 百石町展示館教室は2,200円をレッスン毎にいただいております。※欠席の場合はいただいておりません.
  • 絵の具代/1作品に付500円・材料費別途
  • その他費用/4月・10月にメディウム代として消耗品費500円をいただいております.
  • その他不定期に短期講座を企画 (場所はアトリエまたは弘前百石町展示館等) 出張講座も賜りますのでご相談ください.

[アトリエY 自宅アトリエ教室]

青森県弘前市小沢山崎352-13  

TEL/FAX  0172-87-4616

携帯:090-5358-1537

弘前バスターミナルより弘南バス 城南線78番 おうよう園前バス停より徒歩3分/JR弘前駅より車で15分

アトリエYへのメールはこちら・→

又は、ページ下メールフォームをご利用ください.

自宅アトリエ教室でのレッスン風景
自宅アトリエ教室でのレッスン風景

 

 

 

[弘前市百石町展示館教室]

青森県弘前市大字百石町3番地2 

 

JR弘前駅から市内循環100円バス「弘前駅前」乗車、「下土手町」降車 徒歩3分/JR弘前駅から徒歩20分/弘南鉄道中央弘前駅から徒歩10分

詳細については、HPをご覧ください・→

 

 

 


過去の作品展歴

三上さんの活動を理解する一助としてご覧ください.

古い写真のため画質が悪いものもございますが、予めご了承ください.

  • 2014年ハンドペイントブローチ展示会
  • 第5回作品展
  • 第6回作品展2016年9月1日~4日

写真は、アトリエY公式サイトから引用したものです.拡大画像などは公式サイトをご覧ください≫

 


各種メディアの掲載歴

古い写真等、画質が悪いものもございますが、予めご了承ください.

  • ペイントクラフトNo.11 ( 1999年1月20日 )p.32
  • ペイントクラフトNo.33 ( 新人ペインター紹介 ) p.56
  • ペイントフレンドVol.7 ( 2011年8月10日 ) p.12
  • ペイントフレンドVol.8 ( 2011年11月10日 ) p.16
  • JDPA会報誌No.53 ( 2009spring ) p.20
  • 日本手芸普及協会会報誌 HandiCrafts2006 Vol.51 p.27
  • ペイントフレンドVol.11 ( 2012年8月10日 ) p.23
  • ペイントフレンドVol.21 ( 2015年2月10日 ) p.23
  • ペイントフレンドVol.22 ( 2015年5月10日 ) p.20
  • ペイントクラフトデザインズ1( 2011年 ) p.58『第13回ペイントクラフト賞ハートウォーミング賞』

アトリエY 三上雪路さんに関する詳細情報はアトリエY公式サイトにて公開しております.過去の作品展の画像、教室のご案内、教室へのアクセス、教室カレンダー等ご覧いただけます.

最新情報は、公式サイトLINE公式アカウントより友だち登録をお願いいたします.

公式サイトはこちら>

 

アトリエYインスタグラムはこちら>

日々の活動をご覧いただけます.



|三上雪路 略歴|

  • (財)日本手芸普及協会認定講師
  • JDPA (日本デコラティブペインティング協会) 講師会員
  • SDP ( Society of Decorative Painters ) SDP会員
  • 2級色彩コーディネーター

アトリエY代表

札幌出身.結婚後、東京在住の際1994年に独学でトールペイントを始める.夫の故郷である青森県に移転後、本格的にデコラティブペインティングの勉強を始める.アン・キングスラン先生の通信講座、その他アメリカの諸先生の来日セミナーに参加.自然豊かな弘前市のログハウスに暮らし、花を育て、小さなアトリエで教室を開いている.

身の回りの花や鳥たちがモチーフとなり、アクリル・オイル・水彩で表現する.家族は夫と息子一人.

 

三上雪路さん/自宅アトリエのテラスにて
三上雪路さん/自宅アトリエのテラスにて


Tole&Decorativepaint アトリエY

代表:三上 雪路

青森県弘前市小沢山崎352-13  

TEL/FAX  0172-87-4616

携帯:090-5358-1537

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メールはこちら・→



三上雪路さんへのご質問・お問い合わせは、下メールフォームより必要事項をご入力の上、送信してください.
クラフトラボ運営事務局で受信後、責任をもって三上さんにお届けいたします.

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